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咬合崩壊 超難症例の治療詳細

 当院では様々な難症例の患者さんをご紹介頂くのですが、そのような症例を実際にどのような手順で治療をしているのかを、実症例を詳細に提示して解説します。
本ケースの患者さんから当WEBサイトでご紹介させて頂くことを快諾していただきました。
当院の症例供覧は症例検討の学術的見地から多くの医療者の方々から賛同を頂いております。
代表して深く感謝申し上げます。

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初診時と治療完了後の比較口腔内写真
単純に広範囲なう蝕の進行で咬合が崩壊しています。
これでは健全な食生活を営むことは出来ません。
​既に歯科治療は多数受けておられておりますが、どの歯科医師も収拾がつかないという事でご紹介頂きました。

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 初診時と治療完了後のパノラマX線写真です。
う蝕の進行の凄まじさはX線写真により明確です。
臼歯部はほぼ全てが歯根部まで崩壊しており、骨内にも感染病巣が多数発生していました。
生活歯(有髄歯=歯髄の生きている歯)は7本のみ。
​当院での治療では、それらはすべて歯髄を温存して治療しました。 

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治療のFirst Step

なぜここまで崩壊が進んでしまったのか?
​重度なケースほど、​その原因を治療しなければ、効果は永続しない。

 

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 初診時に採得した歯型よりMSEの装置を製作し、2回目の来院時には装着して拡大を開始しました。 
Airwayが回復することが治療の絶対条件と考えたからです。
遠方からのご来院という事と、教師という職業柄から、月に1~2回の治療が限度でした。

治療は順調に進み、上顎骨の拡大により鼻腔からのAirwayが獲得できました。
患者さんには鼻呼吸とリップシール(口唇閉鎖)徹底のトレーニングを頑張って頂き、カリエスの原因となる食習慣を知識としてレクチャーしました。
原因の治療と共に歯科治療も進めて速やかに進めていきます。
上京しての来院回数を増やせないため、午前午後と許される限りの時間を確保して無駄なく最高効率で処置をしていきます。
光明が見えてきた時、11月に結婚式を挙げることを打ち明けていただきました。
初診から4か月後です。
あまりに時間がありませんが、必死で治療して遠目にはきれいに見えるような仮歯を作って何とか無事にクリアー出来ました。

​歯の治療は少ない来院回数で無駄なく全顎的に最大効率が上がる治療計画を立てて行いました。
 

上顎前歯部の治療

​ 
初診時には上顎前歯に変色した仮歯(治療途中?という事です。)
​外すとカリエスで崩壊した歯冠、臨在の一見欠損部に見える歯肉下には2歯の残根が埋もれています。
​電気メスで残根を露出させるも、健全部は菲薄の上、骨縁下となるため矯正的挺出によりフェルールの獲得を目指しました。

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下顎前歯部の治療

​ 
下顎犬歯間の6歯については大量の歯石とカリエスがあるも、全て歯髄の生きている生活歯でした。
歯石は大量でしたが歯周病の進行度は比較的軽度でした。
右下犬歯のカリエスが最も重度で感染歯質を除去すると露髄しましたが、強アルカリのMTAセメントと接着性レジン修復により抜髄する事無く、支台を構成してクラウン修復をしました。
他の5歯についてはカリエス部分のハイブリッドレジン修復を行い、歯間離開部も同様にレジン修復により形態を回復させました。 クラウンではなく詰め物だけで回復させたという事です。

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下顎臼歯部の治療

​ 
下顎両側の第1小臼歯は進行したカリエスにより歯髄は感染により失活し、根尖の骨内には病巣がありましたが、根管治療を施しクラウン修復を行いました。
しかし大臼歯部は崩壊が著しく、残根状態で骨の病巣も伴い保存の選択肢はあり得ない状態でしたので早期に抜去し歯槽骨を整えました。
両側第2小臼歯については、第1小臼歯同様の処置が可能でしたが、存在位置と手前に倒れ込んでいる状態ですので矯正治療で位置を整えなければ咬合を構成できない状態でした。
仮に矯正治療を行ったとしても咬合の回復には義歯かインプラントを追加しなければならないため、予後の不確実な第2小臼歯の保存に期間とコストを費やす事は得策では無いと判断して、インプラント抜歯即時埋入としました。

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上顎左側犬歯以遠の治療

​ 
上顎左側部の犬歯より後方歯は第1大臼歯を除き全て残根状態で保存の余地はありませんでした。
​第1大臼歯は根管治療を施しクラウン修復を行いましたが、他は全て早期に抜歯して歯槽骨の回復を待ち、インプラントと修復としました。

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上顎右側臼歯の治療

 上顎右側部は第1小臼歯はカリエスはあるものの生活歯であり、配列位置がズレてはいますが口腔内で唯一ダメージの少ない歯でした。
第2小臼歯と第2大臼歯は残根状態で保存の余地はありませんでしたので早期に抜歯をしました。
第1大臼歯は一見歯冠が残存しているように見えますが、内部はカリエスがえぐるように進行しており、感染して失活した歯根から骨内には病巣が広範囲に進行しており、CTから副鼻腔の1つである上顎洞まで感染が及んでいるのが確認できました。
これについては根管治療を施した後に外科的に処置をしなければならない状態でした。
​幸い術後の経過は良好で副鼻腔も正常化し、シンプルなブリッジによる修復を行いました。

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​ 以上で治療は完了し、患者さんも喜んで頂けましたがこれで終わりではありません。
​2度と過去の不幸な状況に戻らないために、これからが健康管理・予防管理のスタートです。
鼻呼吸とリップシールで常に口腔内が唾液によって守られるようにする事。 
虫歯の最大の原因である糖類の頻回な摂取をしない事。
これらは終生続けてください。
歯磨きも適切にお願いします。
これからは歯の事を気にせず、思い切り笑って、美味しいものを食べて人生を明るく楽しく歩まれる事を主治医として切に願います。

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