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楔状欠損

楔状欠損の原因

 原因については諸説あります。

 元々は横磨きのブラッシングや歯磨き粉の研磨剤が原因と考えられていました。

その後、発掘された古代人の歯にも楔状欠損が認められた例を挙げた論文により、過度な咬合力により生じる物理的な現象という説が広く浸透し、歯磨き原因説は否定されてきました。

しかし又近年になり再び不適切な歯磨き原因説の論文により、現在は再度それが主原因として認識されるようになりました。

確かにこの写真のような深い楔状欠損は咬合力だけが原因とは考えられず、やはり不適切なブラッシングと歯磨剤により削られたものであるのは間違いありません。

 

 但し、過度な咬合力により生じると考えられるケースも完全否定されたわけでは無く、歯の歪により生じた歯頚部のエナメル質の剥離により柔らかい象牙質が露出する事で摩耗と酸蝕が生じ易い初期環境となり得る等、原因は単純では無く複合的要素がありそうです。

 因みに異常咬合によって歯頚部のエナメル質が剥離する成因メカニズムについては以下の論理となります。

 歯ぎしり咀嚼時の咬合TCH(下記の詳細をお読みください)によって歯に横方向へ揺さぶる力が加わると、歪みや応力が歯茎付近に蓄積します。

 歯根に近づくにつれエナメル質の厚さは薄くなっていきますので、それにより歯根との境界部の薄いエナメル質に目で見えないほどの微細なひび割れ「マイクロクラック」が生じます。

すると、柔らかい象牙質が露出して酸蝕や不適切な歯磨きなどで削られ、進行すると木こりが木を切り倒すように根元が楔(くさび)状の切れ込みになって、歯髄腔が露出したり、歯が折れてしまうこともあります。

数年~数十年かけてゆっくり切れ込みが深くなっていくために、重度になっても自分では気が付かないことが多いです。

 楔状欠損部は象牙質が露出しています。 

象牙質はエナメル質より高いphで溶け始めますので、酸性食品の影響を受けやすくなります。

又、毎日の歯ブラシで漫然と擦り続ける事で摩耗が進みますので、歯科衛生士のもとで適切なブラッシング指導を受けるようにしてください。

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異常咬合を原因と仮定した楔状欠損の発生メカニズム

拡大図

楔状欠損の修復

予後の悪いレジン修復

 歯肉が極度に下がって楔状欠損が大きな範囲で生じている場合は、楔状欠損を含む露出歯根上に歯肉を移動させたり、口蓋の角化歯肉を移植して生着させる歯周外科処置を行う場合もありますが、接着性レジン修復が一般的な治療として多く施術されています。

 しかし、レジン修復の予後はあまり良くありません。

修復後数年、中には数か月で、修復したレジンの輪郭から剥離やひび割れが生じているケースをよく目にします。

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 レジンの物性は柔らかく、咬合や歯ブラシなどで容易に摩耗してしまうため歯の修復に使用する場合は、耐摩耗性と硬度を高めるためにセラミックスを超微粒子にしたセラミックスフィラーを混入します。

これがセラミックスハイブリッドコンポジットレジンです。

耐摩耗性等の物性的には丈夫になりますが、これを弾力のある象牙質に接着した場合、そこに咬合の揺さぶり力による歪によりその界面が剥離してしまう事があります。 

楔状欠損の治療法

 それでは歯の歪にどう対応するか。

ここがポイントです。

そこで当院の処置として2点あります。

 

まずは異常咬合によると思われる場合の原因対応として

 

1. 歯を揺さぶる側方への強い咬合接触を排除。

 歯は土に刺さった杭と同じで、垂直方向への力には強いですが、横方向への揺さぶり力には脆弱です。 

側方への咬合力は歯を支えている骨にも悪影響を与え、歯には折り曲げるような、外傷的な力が働きます。

小さいころから良く歩き、よく噛んで食べる人の歯は適度な摩耗によって咬合の側方運動がスムーズですが、そうでない人の歯は摩耗が少なく垂直に咬み合わさって、側方運動時の咬合干渉が強い傾向があります。

ヒトの場合、咀嚼時には顎を左右にずらして食物をすりつぶすのですが、関節の位置から後方に行くにしたがって歯にかかる力は大きくなります。

よく噛んでいる人では、若年時には咀嚼時は犬歯が主にすり合って奥歯には横方向への力がかかりません。(カスピッドプロテクテッドオクルージョン=犬歯誘導咬合)

それが加齢と共に犬歯が摩耗して小臼歯の咬頭が擦り合うようになり(グループファンクションドオクルージョン)、さらにそれも摩耗すると大臼歯部の咬頭も擦り合うようになり、全体の歯の山谷が平坦になります。(フルバランスドオクルージョン)

​ところが咀嚼によるそのような摩耗の少ない人は臼歯の咬頭が尖ったままで、上下の歯が噛み込んでいて側方にずれるたびに歯を揺さぶってしまいます。

 このような場合は咬合調整で改善する場合が多いですが、歯列不正や放置されたう蝕や欠損歯等による咬合不良がある場合は全体の咬合構成が必要になる場合もあります。

さらに、TCHの分析とそれに対するコンサルテーションが有効な場合も多いです。

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次に、修復テクニックとして

 

2. 強固で確実な接着の手技については当然の事とした上で、弾性のある象牙質と耐摩耗性に優れた耐久性のあるハイブリッドコンポジットレジンの間に弾性のある有機フィラーを使用した軟性コンポジットレジンの接着層を介在させる。

 

これにより歪による剥離力を緩衝させます。

 ファインセラミックスフィラーの混入した耐摩耗性の硬いハイブリッドコンポジットレジンで修復をした一般的な充填法

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​ 咬合による歯の歪により、硬いレジンと柔らかい象牙質の界面に剥離が生じ、修復したレジンの輪郭から接着が破断する。

くまがい歯科の充填法

 

 硬いハイブリッドコンポジットレジンと柔らかい象牙質の間に、​有機フィラーを混入した軟性コンポジットレジンを介在させ、積層して接着する事で歪による接着破断力を緩衝。

有機フィラーの軟性コンポジットレジンを介在させる事で、歯の歪による接着破断を緩衝

楔状欠損の修復例

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TCHとは

TCHとは

通常、唇は閉じていても上下の歯は接触していません。

上下の歯同士が直に接触するのは食物や唾液を飲み込む嚥下時と食事の咀嚼時に食物を噛み切った一瞬で、それを合わせた総時間は24時間中僅か20分程度です。

嚥下の回数は1日に平均585回(203~1008回/1day -Lear CSC Arch Oral Biol .10:83-99.1965)という計測データがあります。 

 

 それら以外に慢性的に頻回、或いは長時間上下の歯を接触させる状態を近年、TCH(Tooth Contact Habit =上下の歯を過剰に接触させている癖)として注視されています。

TCHには2つのパターンがあります。

1つは筋肉の力で咬合するもの、もう1つは筋肉の力を使用せずに咬合するものです。

 

 噛み締め 食いしばりのように強く筋肉の力を発揮するような場合は自覚出来る場合もありますが、軽く歯を接触させている程度ではまず自覚する事はありません。

例えばストレスや緊張時に上下の歯を接触させる事はごく普通のことで病的なものではありません。

歯を接触させることによって、集中力や運動能力を高めることができるからです。

 ストレスというのは日常的に多くあるもので、車の運転や料理、歩行時や趣味の中でも緊張する場面は多々あります。

さらに、人間関係や仕事や受験、引っ越しや慶弔などより大きなストレスの場面では、個人の性格差にもよりますがその時間や力が増大します。

それらは短時間であれば問題はありませんが、その時間が長かったり、力が過剰に強い場合は歯に傷害的な負荷が加わる場合があります。

 

 以上は筋肉の力で自ら歯を接触させているわけですが、全く筋力を使わず大きな力で上下の歯を接触させ続ける状況があります。

それは下向き姿勢です。

読書、PCやスマートフォン操作、趣味の手作業、果ては居眠りなど、起きた状態で顔を下に向けている場面はよくある事です。

ヒトは水平目線から約30度下を向くと上下の歯が接触してきます。

それ以上に下を向くと下顎は首胸に接触してそれ以上は下がりません。

その後は上顎歯が頭の重さで下顎歯に乗る事になります。

頭の重さは4~5㎏と、あの重いボーリングの球位です。

筋力を使わないので、噛みしめている自覚が無い上に、長時間に及ぶ事が多く歯や歯周組織に与える影響は大きいです。

 それにより、歯に微小なヒビが生じたり、歯と歯槽骨間の歯根膜中の血流が阻血する事で、知覚閾値が低下して知覚過敏が増長する事もあります。

一年にわたる知覚過敏が、毎日2~3時間の本の立ち読み習慣を止めたら消失したという患者さんも過去に経験しました。

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歯根と歯槽骨.jpg
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