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子どもの虫歯

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わが子に虫歯を発見した時、お母さんは心配でたまらなくなります。

“まぁたいへん! 早く歯医者さんに連れて行かなくちゃどんどん進んじゃうわ!”

ましてや、夜中に歯が痛いと言ってワンワン泣いて大騒ぎでもしようものなら、居ても立っても居られずお父さんを叩き起こして救急病院に駆け込みます。

しかし救急病院では特に治療らしい治療はしてもらえず、当直の看護師さんから痛み止めをもらい不安を残しつつも家に戻ることになりますが、翌日にはケロッとしている我が子を見て、(痛み止めで虫歯が治る訳は無いし、痛み止めもとっくに切れていることに疑問を感じつつも) 一晩中ほとんど眠れずへとへとのお母さんは、ホッとしてソファーに沈没していきます。

 

ともかく無理言って予約を取り付け、いやがる子どもに「痛くないから大丈夫よ!」などと言ってなだめすかして、とにかく歯医者さんに連れて行きます。

 

でも子どもにしてみれば今はもう痛くないし、歯医者さんの機械はいかにも怖そうでイヤでイヤでたまりません。

先生も最初は優しく言って聞かせて治療を試みようとしますが、30分経っても治療に応じる気配すらも見せません。 元々無理やり入れた予約なので、待合室には予約の時間をとっくに過ぎて待たされている患者さんがイライラした様子で時計を見つめています。

ついに先生は子供への説得を諦め、やむを得ず泣き叫んで暴れる子どもを力ずくで押さえつけ治療を試みますがそんな状況ですから、満足な治療など到底できません。

詰める歯の穴に唾液が流れ込むなど多少の事(?)には眼を瞑りなんとかレジンを詰め、不安を残しつつも形だけでも治療を終えます。

歯医者さんからの帰り道、「よくがんばったわね。」とお母さんに買ってもらったご褒美のアイスクリームを舐めながら大騒ぎの日が暮れていきます。

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しばらく平穏な日々が続き、歯のことなどすっかり忘れたころ、再びあの悪夢の夜がやってきます。お父さんもお母さんも、泣き叫ぶ子どもを横目に「またか!」とげっそりです。

それからは、終わりの無い歯医者通いの日々が続いていきます。

ふとある日、お友達と遊ぶわが子の歯が全体的に随分と黄色く見えることに気付き、長引く治療に不安を感じていたこともあり、思い切って他の歯医者さんに相談に連れて行きます。すると、「随分とたくさん治療しましたねぇ。黄色いのは全部詰め物のレジンとセメントです。 X線写真で見ると、その下では虫歯がだいぶ進んでいるようです。 

治療は全部やり直しですねぇ。」

“えっ! 今までの苦労はなんだったの? 治療してから何ヶ月も経っていないのにこれでまた振り出し?”お母さんは力が抜けて気が遠くなる思いです。

以上は実話なのですが、多くのお母さんが大なり小なりこのような経験をお持ちだと思います。

終わりの無い虫歯治療・・・

それではどうしてこのような泥沼にはまってしまったのか、考えてみたいと思います。

 

そもそも虫歯とは、簡単に言えば口の中の特定細菌が作り出す酸で歯が溶けて(脱灰といいます)穴が開いた歯のことを言います。 

 

虫歯が生じるためには、

☆酸を産生する特定細菌が多数存在していること

☆酸を作るための栄養源である糖の存在

☆歯が酸にさらされている時間が長いこと

が絶対条件です。

 

しかし以上の条件下であっても、酸を中性化する唾液の緩衝能力が高く、分泌量が多い人は虫歯になりにくいという個人差もあります。

又、力学的衝撃による歯の表層の粗造化や歯列不正がもたらす細菌や酸の停滞スペースの存在等が、個々の歯の環境的リスクの違いとして影響します。

ですから歯そのものが生まれつき悪いとか弱いとかいうことではないのです。

そもそも食生活をはじめとした子どもの発育環境にその原因の大半はあります

厳しい食環境で生きる野生動物には虫歯は存在しません。歯磨きが悪いなどという事は、虫歯の根本的原因ではありません。

アメリカのウェストン・A・プライス博士が世界中の未開の地を23万キロに及び詳細な調査を行い1945年に出版した著書には、生活環境の近代的な変化が如何に人間の身体に影響するかということが多くの現地人の写真と共に記されています。

例えばニュージーランドの調査では、「未開の土着人であるマオリ族は世界中の種族の中でも最高の歯と身体をもっているといわれ、虫歯の罹患率はなんと1万本に1本であったが、白人が移住してくるにつれて近代化の進んだ地域ほど虫歯が蔓延し顔面骨も著しく未発達になり、歯列弓も狭小で、歯も叢生がみられ、鼻孔の発達も不十分であった。そして、移住してきた白人は、世界一ひどい歯をしている。」と記されています。

私自身も、海外の途上国を何度も訪れて文明に過剰に染まらない生活をしている人々の素晴らしい身体と整った顔立ち、そして美しい歯列をこの目で見てきました。 

食生活はもとより歩く距離が桁違いに減少し、さらに例を挙げればキリの無いほどの生活の利便性を追及した環境変化が人類の身体を退化させる原因だと断言できます。

蛇口をひねれば水が出て、電話を掛ければピザが配達されてきて、携帯電話が手放せない、等という事が当たり前となったのは、言語を習得してから400万年に及ぶ人類の進化の歴史のなかで如何ほどの年月を占めるのでしょうか。

NUTRITION AND PHYSICAL DEGENERATION 1945より

WESTON A. PRICE ,D.D.S.

 多くのお母さん方はご自分の虫歯には無頓着でも子どもの虫歯には敏感ですが、虫歯は典型的な生活習慣病です。

子どもの生活環境はご家族によってもたらされるものですから、厳しい言い方をすれば乳歯の虫歯は御家族の責任ともいえます。

すぐ治療、と人任せにする前に御家族皆さんでその原因についてよく話し合い考えてみてください。

(但し家族の中で誰かを責めるような事は決してしないで下さい。乳歯の虫歯の1本や2本どうってことはありませんから。過剰に神経質になるのも困ります。あくまでもこれをきっかけとして、という話です。)

生活習慣を急に変えることは難しいのですが、虫歯の歯でチョコレートを節操無く食べ続ければ、子どもは甘いおやつと虫歯との因果関係を身体で学習することでしょう。

​そんな食習慣であれば歯磨きするだけ時間の無駄という事も身に染みるはずです。

脳の発達途中の子供は言葉よりも身体で学んで成長していきます。

痛みを知るという事は自分を守る事に繋がり、人生経験の中でも大切な一歩と言えます。

乳歯の虫歯は子供と家族に健康の大切さを教えてくれます。

そして有り難い事に、虫歯になった乳歯はいずれ抜けて永久歯に生え変わります。

痛みを知り、痛みに謙虚になることは、健康の有難みを知る意識を芽生えさせ、分別と節操を持った人格を育むことでしょう。

今、このことが欠落した大人がとても増えています。そういった人たちは自らの不摂生を省みることなく自己中心的となって医師や看護師に不満をぶちまけています。 まさに泥沼となり不幸な人生を歩むことになります。

子どもの歯の痛みは大人の歯痛とは程度が違います。子どもはころんで擦り傷を作った程度でも思いっきり泣きわめきますが、大人はどうでしょうか?

例え痛くて夜中に騒いだとしてもさほど心配する必要はありません。

少なくとも痛いと騒いだら虫歯の原因を強調した上で、「歯医者さんに治療をお願いしたいの?」と尋ねてください。 そして、病院へ連れて行く前提として、治療を受けると言うことは自分を助けてもらうという事であることを充分に諭す事が子供への躾であり愛情でもあります。

5才を過ぎて歯医者さんの治療をイヤイヤしているうちは虫歯程度でしたら無理してまで治療をする必要はありません。

些細な治療を、嫌がる子どもを無理やり押さえつけて行うことは、中途半端な治療でさらに病気の原因を作るばかりか医療に対する恐怖心を植えつけるだけで後々大変です。

 乳歯の虫歯で重病になるような事は滅多にありません。

実際に味噌っ歯といわれるほど虫歯でボロボロの子供たちは高度成長期の日本にはたくさんおりましたが、ろくな治療を受けることが出来なくとも子供たちは適度に成長していきました。しかもその子どもたちが皆そのまま永久歯まで虫歯でぼろぼろという訳ではありません。

反転・トリミング済
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虫歯の進行した 8 歳児の乳 歯ですが、様々な環境改善 の後にはほどほどに

落ち着いています。

却って乳歯の虫歯の治療に始終していた子どもほど、そもそもの原因である環境因子の改善がおろそかにされて、永久歯に虫歯が多発する傾向があります。

お母さんは治療を受ければ安心されると思いますが、一般的に歯を治すということは大人であっても子供であっても自然治癒を目指すものではないことをよく理解なさってください。

 

神経を取ったり抜歯する程度のことは簡単ですが、こと接着剤で乳歯にきちんと詰め物をするような保存治療は実は皆さんが想像するよりも遥かに難しいことなのです。

そもそも歯の本体である象牙質はコラーゲン(ゼラチン)を30%も含む構造になっていて、接着剤を歯に浸潤させること自体が大人の治療であっても非常に高度な理論と治療技術・時間を要します。

医療費用や技術的な困難さが障害となり、不幸なことに大人であってもそのような理想的な治療を受けている人は極々少数です。

詰める歯の穴に唾液や血液が僅かでも混入しようものなら、治療をしたことが却って有害なものとなります。

泣き叫んで暴れる子どもの口の中で、そんな緻密で時間のかかる治療が可能と思われますでしょうか?

自然に進行した虫歯ではせいぜい歯がぼろぼろになる程度です。

こういった不完全な治療を行った歯に痛みが出た場合は腐敗などによるガス圧が外に逃げられないため、事態は顎骨など歯の周辺組織に広がり深刻となります。

治療が原因で起こる病気のことを医原病と言いますが、事実永久歯が悲惨な状態の人の多くは治療技術の未熟さや不適切な歯科治療を受け過ぎたものが大半です。 

歯医者に行く度に歯がぼろぼろになるようでは困りますね。

残念なことに現在の一般的な社会保険診療はもとより患者さんにおかれても、歯を削ったり詰めたりと加工することに評価が偏っているので医療機関側としてはより多くの歯を治療する傾向になっています。中途半端な治療をするくらいなら放っておいた方がマシ、という場面も多々見受けられます。

又、治療の必要性の有無は環境改善に対する御家族の理解度実行力にかかっていますので、指導する歯科医師にとっても非常に高度な診断力のみならず判断力が必要とされます。

ですから色々な理由でこのようなメッセージを発信する歯科医師は多くはありません。

 

私をホームドクターとして信頼してくださっている皆さんにつきましては、虫歯治療の必要性やタイミングは私が精査・診断いたします。 

その上で生活指導が優先された場合には治療することのみに気を奪われず、これをきっかけとして虫歯の原因についてお父さんお母さんもご一緒に検証してみてください。

私たちの乳歯の虫歯に対する治療はそこから初めて行きます。そして、速やかに虫歯にならないような生活に改善していきましょう。その上で、私が必要と判断したならば治療を施しますので先走ったご心配は無用です。

そうすればきっとこれから誕生する美しい永久歯を守る事ができるでしょう。

しかし、良く考えてみてください。身体全体の中で歯は何番目に重要ですか?歯よりも大切なものの方が圧倒的多数ではありませんか。 とすれば、それらをさておき歯のことばかりにとらわれるのはどうでしょうか。

私たちの指導の中には歯とはおよそ無関係と思われるものが多数あろうかと思いますが、それは歯をきっかけとして全身的な様々な健全な成長育成を考慮してのことです。

私の生活指導や研究報告はすべてがそれに尽きています。それらにより皆さんの知識が増し、その意義を理解され、各々の生活環境の中でさらなる応用がなされることを願っています。

人間は他人に責任を転嫁したがる動物ですが、医療に不安を感じざるを得ない今の日本で、国の医療制度や医療機関、医師たち、学校等を責めたところで誰も救われません。

自分や家族の健康を守りたいと思われましたら決して受身ではなく、積極的に学び実践していくこと以外に道はありません。

 

それから子どもは親を見て育っていくことも忘れないでください。

まずは親が自ら手本になろうという姿勢は親自身をも救うことになります。

私たちはそういった前向きな皆さん方の力になりたいと考えています。

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この文章の内容は、くまがい歯科の患者さんに対応したものであり、現行の歯科における一般認識とは異なる点が多々あることをお断りいたします。 

挿絵は絵本作家のかとうようこさんが本文を読まれたイメージを描いてくださいました。御好意に感謝申し上げます。

尚、複製・引用を無断で行うことはご遠慮ください。

​当院にはかとうようこさんのすばらしい原画を多数展示しております。

季節毎に作品が入れ替わりますので、ご注視ください。

​下のリンクボタンよりかとうようこさんの作品がご覧になれます。

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