もしも奥歯が抜けたら
もしも臼歯を抜歯することになったら、
選択できる治療法について、それぞれメリットとデメリットを挙げてみます。
★ 前後に歯のある中間歯1歯欠損の場合
1. ブリッジ
メリット
・前後の歯と強固に一体となるため、食事の違和感は義歯よりも遥かに少ない。
・歯磨きをきちんとすれば、衛生的。
・義歯と異なり、ブリッジは歯肉粘膜に負担が無い。
デメリット
・2本の歯に3本分の力がかかる。
・2本の歯に接着されている構造のため、そのどちらかの歯に問題が生じた時がブリッジ全体の寿命となる。
・ブリッジ製作のために、前後の歯の支台歯形成が必要。つまり1本入れるのに3本分の治療と費用が必要となる。
※ブリッジを選択する場合の注意点
ブリッジを支える支台歯のコンディションはまちまちです。
外観は同じでも、支える歯の歯根が短かかったり、内部がよれよれであれば長期に持ちこたえる事はできません。
そればかりか他の支台歯の寿命も道連れにしてしまいかねません。
無髄歯(俗に言う神経の無い歯)の強度は有髄歯に比べてかなり低下しますので、歯根破折のリスクが高いです。
2. 部分床義歯
メリット
・治療が最小限でシンプル。
・そのため、後に他の方法への切り替えが可能。
デメリット
・歯肉で支えているため、硬いものは噛みにくい。
・金属クラスプが審美領域の歯にかかる場合は見た目が目立つ。
・クラスプのかかる歯の力学的負担により生じる悪影響。
・義歯の安定とスムーズな着脱のために隣接歯側面のフラット加工や義歯の沈下防止のストッパーがはまる溝(レスト座)として咬合面に直径1ミリ程度の窪みの加工が必要。
・かみ締める頻度や時間の長い方は、歯肉が傷ついたり、炎症を起こす場合がある。
・細菌が繁殖しやすいため、数時間おきの洗浄と、就寝時は外す事が望ましい。
・義歯床やクラスプに食べ物が挟まりやすく、舌感が悪い。
3. インプラント
メリット
・インプラント単独で咬合圧を受けるので、残存他歯への力学的負担による破折や過重圧による外傷性の歯周病等のトラブルが予防できる。
・骨で強固に支えるので硬いものでも噛む事ができる。
・適切なメンテナンスを行えば耐久性が高い。
デメリット
・手術が必要。
(残存骨の状態によって、手術の難易度が異なる。骨に余裕がある場合は、ブリッジよりも患者さんの肉体的負担や治療時間が少ない場合も多い。)
・インプラント手術後、骨との結合期間を待つため機能できるまでには通常4ヶ月以上先になる。
4. 何もしない
メリット
・治療に伴う、時間、費用、精神的・肉体的苦痛が全く無い。
・衛生管理がし易い。
(但し対合歯は別。 咀嚼による自浄作用が無いので咬合面に歯垢や歯石が沈着し易い。)
デメリット
・左右で均等に噛めない事で、片側咀嚼となる。
それにより左右で咀嚼筋のバランスが崩れ、顔の形や顎関節、身体バランスなどに様々な悪影響が生じる。
・周囲の歯が欠損側へ傾斜したり、対合する歯が挺出するなどして咬合が崩れる。
長期間欠損状態を放置すると、周囲の歯の位置関係が崩れます。
このような状態になってしまいますと、後に修復治療を行う事が至難となります。
何らかの理由で治療を先延ばしにされたい場合は、とりあえず他の歯の移動防止にリテーナーとしての簡便な義歯を作り、1日数時間程度でも装着される事をお勧めします。
★ 前後に歯のある中間歯2歯欠損の場合
1. 2歯欠損ブリッジ
ブリッジを作製する事は可能ですが、4歯分の咬合圧をブリッジの支台となる前後2歯で支える事になります。
当然過剰負担となり、耐久性は期待できません。
結果、支台の2本の歯の寿命を縮めることになります。
欠損歯部分の歯肉でも咬合圧を支える義歯床類似設計のブリッジであれば、支台歯の負荷がいくらか軽減されます。
但し、歯肉部は圧縮変形していきますので、テレスコープブリッジのような可撤式にして歯肉負荷部分をリベース等で適宜適合を修正出来る事が必須となります。
メリット
1歯欠損のブリッジに同じ
デメリット
・欠損歯が多くなれば、その分支台歯に負担がかかり、将来的に支台歯を失う危険性が増加。
・2歯以上欠損のブリッジは、3~4歯以上の支台歯で支えないと物理的に存続が困難なので、犠牲となる歯数が増す。
・連結固定されている構造のため、支えているいずれかの歯にトラブルが生じた時がブリッジ全体の寿命となる。
2. 部分床義歯
メリット デメリット
・ 義歯一般に共通
3. インプラント
メリット デメリット
・1歯欠損のインプラントと共通ですが、複数歯欠損症例では、咀嚼機能面、残存歯の保全、審美面でブリッジや義歯と比べてメリットがより多くなります。
4. 何もしない
メリット デメリット
・中間歯1歯欠損と共通ですが、より周囲歯と対合歯の位置移動が広範囲になり、後々の修復が困難となります。
最終治療法に悩まれましたら、それまでは周囲歯の位置移動防止のために暫間義歯を作製することをお勧めします。
★ 後方に歯の無い、遊離端1歯欠損の場合
1. 1歯欠損遊離端(延長)ブリッジ
ブリッジを作製する事は可能ですが、両サイドで欠損部の荷重を支える中間歯欠損ブリッジと異なり、カンチレバータイプブリッジでは支台歯に過度な荷重が生じます。
カンチレバーの橋や建築物のように、支える部分の歯の強度を増やす事は出来ませんので、支台の天然歯は過重負担となり、歯根破折・クラウンとの接着剥離・外傷性歯周病等により崩壊する事になります。
左右共に力学的に予後不安な状態の1例です。
(勿論、当院の治療ではありません。)
メリット
・固定式である事。
・咬合を目的とせずに僅かに咬合接触させるのみに留めるならば、対合歯の提出防止として役立てることも可能。
デメリット
・支台歯への負担が大きく、将来的に支台歯を失う危険性。
2. 部分床義歯
・最後臼歯1歯のみの欠損の場合、咀嚼に不自由を感じる事はほとんど無く、義歯を作られても、有利性を感じ難いため俗に「ポケットデンチャー」と揶揄されるように、実際に使い続ける患者さんはほとんどおられません。
・但し、咀嚼時に使用しなくても、毎日短時間(必要時間は個人差があります)の装着により対合歯の挺出を予防する事が期待できます。
3. インプラント
メリット デメリット
・メリットデメリットは他のインプラントと同様ですが、最後臼歯部は骨幅が狭いことが多く、開口量の小さい方ですと、ガイドが使用出来ない等、難易度の増すケースがあります。
・咀嚼に関しては、一般的に第一大臼歯まで残存していればほとんど不自由はないので、対合歯の挺出を防ぐ意味合いが大きいです。
・義歯やブリッジは大切な前方の歯の寿命を縮めてしまうため、難易度がそれほど高くなければインプラントが無難な選択肢と言えます。
4. 何もしない
・対合歯の挺出の心配が無い場合は、何もしない事をお勧めするケースも多いです。
・挺出の恐れが高い場合は、咬合しない対合歯を臨在歯と連結固定する事は有効です。
★ 後方に歯の無い、遊離端2歯以上欠損の場合
1. ブリッジ・・・の選択肢は無謀ですね。
2. 部分床義歯
・欠損歯数が多い場合は義歯の釣歯からのモーメントアームが大きくなるため、
反対側の歯にも維持を求めるクロスアーチの設計にする必要があります。
メリット デメリット
・ 義歯一般に共通
3. インプラント
メリット デメリット
・メリットデメリットは他のインプラントと同様です。
・ 咀嚼に関しては、一般的に第一大臼歯まであれば十分に機能します。
4. 何もしない
・咀嚼機能の喪失以外に対合歯の呈出、顎関節の損傷、平衡失調が生じる可能性があります。
・噛むための筋肉は強大です。
食いしばる時などでは100kg以上もの力を発揮することもあります。
奥歯で咬合できないと、咬合力を顎関節で受け止めることになり、関節内の軟組織(関節円板)の損傷が生じ、顎関節痛、開口障害などの顎関節症状が出現します。
何もしないという選択は、後のトラブルの種となります。