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正中口蓋縫合の可動性

 脳を守る -  頭蓋骨はそのために、容積を可変する事の出来る構造です。

頭蓋骨は下顎骨を除くと14種22個の骨で構成されています。それらの骨は縫合(スーチャー)により可動性に繋がっています。言うまでもなく頭蓋骨の中には大切な脳が納まっています。そして内部には大量の血液が生涯休みなく循環しているわけです。
固い頭蓋骨の容器の中で、血液がドクンドクンと脈打ってしまうと、神経が一々反応して大変なことになります。 

そのため頭蓋骨内部では血圧の変動が起こらない無拍動血流という特殊なメカニズムによって血液循環をしているのです。 
しかし、外傷・腫瘍等の疾患・血圧の急上昇・内出血等により頭蓋骨の内圧が高まる異常事態は生じ得ます。その際には頭蓋骨内の容積が拡大して内部圧力を緩衝する事が出来なければ、血管が破裂したり脳が損傷するなど深刻な事態が生じる可能性があります。
そのため頭蓋骨はたくさんの骨が可動性の結合により内容積を可変出来る構造になっているのです。

足底に圧力が加わると広がる上顎の幅!!

足がブラブラの時と、しっかりと足を着けて自重を支えた場合とで、上顎の歯型を採ってその幅径を比較したところ100症例中すべてで足が着いていた方が最大1mm近くも広かったという論文が既に他の研究者により発表されています。
これは足底圧により身体の水系成分がの水位が上昇し頭蓋の内圧が高まることにより頭蓋骨の縫合が緩んで頭蓋容積が拡大されたためと考えられます。
上の歯列が収まっている上顎骨は2対が正中口蓋縫合により結合しているため、ここが緩むと歯型の幅も広くなるわけです。

過去に、左右にまたがる幅の窮屈な部分入れ歯を装着したときに、患者さんから鼻が詰まったり頭が重いという訴えを頂戴した実体験がありますが、理屈として納得できます。
  このエビデンスを尊重して、当院でインプラント補綴・ブリッジ・連結補綴物・義歯による修復治療を行う際には、縫合の可動性を制限しない設計を行う事を徹底しています。足がブラブラの状態でフィットさせた総義歯は足底圧がかかると窮屈になり頭を締め付けます。
 しっかりと足底圧のかかった状態でフィットさせた義歯は、立った時にぴったりで足がブラブラでややゆるくなります。
ブリッジ等で天然の歯と歯との連結であれば、歯と骨の間には歯根膜腔という間隙があるのでまだ僅かに可動性が残されるのですが、インプラントの場合は骨と完全に結合(オステオインテグレーション)しているため正中口蓋縫合をまたいだインプラントの連結は縫合の可動メカニズムを完全に停止させてしまうので要注意です。

絶えず変動する縫合の緩み

下の写真は30台後半の女性の患者さんがご自身で撮られたものですが、

夜就寝前と朝起床時の中切歯間の間隙を比べて見てください。

 夜の写真では左右の中切歯間に1mm弱の隙間が見えますが、朝になると間隙が縮小しているのが判ります。 

数ヶ月に亘る写真に同様の状況が続いています。
歯には動揺はありません。 

私が指で押しても写真ほど間隙は変化いたしませんでした。
もし頭蓋容積が縮小して縫合が締まって起こる減少ならば脳血流障害が懸念されます。
お話でも夜中に頭痛や鼻づまりで苦しい思いをよくされるということでしたのでその可能性は充分あり得ます。
普段より出歩くことの極めて少ない方でしたので、何よりも日常の歩行を増やしてもらい、頭蓋の容積変化を障害しない設計のピローを使ってもらうようにしました。
その後、次の写真のように間隙の変化が速やかに縮小してきました。
間隙が縮小状態で安定したのではなく、拡大状態で安定したことに私は安堵しました。
空隙については放置しても構いませんし、見た目が気になるようでしたらレジン等で修復すれば容易に改善できるので問題ではありません。
日常診療において患者さんの状態や治療経過を一人につき数十枚から数百枚単位で撮影記録している私ですが、このような短い時系列での写真を撮る事はあり得なかったので、本当に驚きました。
もし仮にこの患者さんが上顎の左右中切歯を連結するような治療を受けたならどの様な事になるでしょうか。
歯科治療では連結固定は極めて一般的な手法ですので、決してあり得ない話ではありません。


 皆さんも歯間清掃用のデンタルフロスが時によってきつくなったり緩くなったりすることを経験されていませんか?
くまがい歯科ではこんな検証実験をしました。(母数100名)

上顎前歯の正中に(この2本の歯の間に正中口蓋縫合があります。)110ミクロン厚のコンタクトゲージを挟み、足底圧の強弱の変化で正中口蓋縫合の締り緩みが体感できるかの実験です。

結果として、無圧状態ではきつく感じ(大抵は痛いという感想でした) 、加圧状態では緩くなり痛みも治まるというのがほぼすべての人の感想で予想と合致しました。

正中口蓋縫合の可動性を制限する可能性のある歯科治療

Allon4_edited.jpg
 正中を跨いでブリッジ等で連結固定する場合、天然歯同士であれば、歯根と歯槽骨間には1/5mm程の歯根膜腔により、僅かな動きが許容されますが、インプラントの場合は骨と隙間なく結合しているため完全に固定されてしまいます。
​ 近年、"All on 4"(イメージ図) 或いは "All on 6" という手法が散見しますが、これを上顎骨に適応させた場合、上顎骨の可動性や柔軟性が制限される事で何らかの問題が生じないか懸念されます。
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